少女伝道師・2
「今日はあなたが来ると言っておいたのでね。彼女が、今話した、鹿島加奈子だ」
私は、自分の眼と耳を疑った。そして、もう一度、彼女を観察する。
やや吊り目気味の大きな瞳は、妙な色気を湛え、頬はわずかに上気したような、健康的な薄い桜色。通った鼻筋、小さいが薄くない口唇は、どことなく肉感的であった。化粧っ気がほとんど感じられないが、肌は薄化粧を施したように美しく、滑らかであった。
そう、言われてみて、確かに目の前の女性は、Y氏の話に出てきた「加奈子」にイメージ的に重なってきた。
「今は大学生で、今年十九歳になる」
「鹿島加奈子です。よろしく」
彼女は私と挨拶を交わすと、ダイニングにいるから、と言い残して部屋を出ていった。
私はそこで、初めてY氏の話を全面的に信じる気になった。
確かに氏の眼は本物であった。しかし、そうであっても、体験自体は架空のものであることもしばしばあるという。私の今までの経験からして、「本物」と思われる人物の体験談でさえ、半分以上はガセであった。
であるから、Y氏の場合も、自分の体験プラス「思い込み」で「本物」を装っているのではないか、と思っていたが まさか、実物が待機しているとは思わなかった。
Y氏は、新しいカップに一口つけて、再び話を再開する。
「加奈子は昔の話や、自分以外の女の子の話は聞きたがらないんでね。インタビューには同席できないのはご勘弁願いたい。もう二人呼んであるから、彼女らが来たら、直接インタビューしてみるといいだろう。
加奈子と睦美の話だが、加奈子とはそれからずっと続いて今に至るが、睦美とは中学三年までだったな。私は、二人が離れていくならそれでもいいと思って、好き勝手なことを二人にした。とはいえ、加奈子は見てのとおり、すっかり順応してしまったから、もう離れることはないだろうがね。今日来るはずの二人のうち一人もそういう娘で、もう一人は最近付き合い始めた娘だ。
睦美は結局、私と加奈子のペットのような存在だった。すっかりマゾに目覚めさせたものだから、少々の事では苦痛など感じなくなっていた。睦美と別れたのは、彼女の両親の都合で、北海道に引っ越してしまったからだ。加奈子は今でも交流があるそうだから、連絡は取ろうと思えば取れるのだが、睦美はもう私には逢いたくない、と言っている。逢えば、また以前のような底無しの欲望の泥沼にはまるかもしれないだろうからね。
加奈子と睦美を『飼う』ようになって、私は二人に友達や先輩、後輩などを連れてこさせた。無理に引っ張ってくるようには言わなかったが、セックスに興味の強そうな娘を連れてくるようには言った。加奈子より睦美の方が、そういう娘を見抜く眼はあったな。まず二人がテストして、拒否反応が強いようならそこでやめる。順応するようであれば、私の元へ連れてくる。そうして、睦美と別れるまでの四年で、二十三人を二人と同じぐらいに従順な奴隷に調教したよ。うち四人は今でも時々逢っている。
彼女らも今はそれぞれ楽しんでいるようで、誰かに飼われていたり、逆に自分のペットを見つけていたり、ショタ専になっていたり、色々いる。
一度だけ、キャンプという名目で五人を連れ出して、山奥で乱交パーティをやったときは、ひどい目に遭ったな。小学生から高校生までいたが、どいつもこいつも性欲は底無しで、私が打ち止めになって血の混じったスペルマを出して、やっと解放してくれた。それから三日は私も疲れ切って、立たせるのにも一苦労だった。ドリンク剤の助けを借りないと、起きる気力もなくなるぐらい搾り取られた。それ以来、二人以上一緒に相手にはしないようにしている」
してみたいような、したくないような体験である。
「私も就職後は、住所も変わり、そんなに時間が取れなくなって、大半の娘たちとは別れることになった。ただ、さほど遠くない場所への引っ越しだったので、加奈子は週末には必ず来ていた。睦美とは、その頃から少しづつ疎遠になっていった。
その頃は 三十人目だな。今日呼んである、真純という娘だ。
真純とは三年前に知り合った。当時中学一年生で、セピアの長い髪で、少し垂れ目気味の大きな瞳の、おとなしい少女だ。
彼女とは、加奈子と出掛けた時に出会った。コンタクトを落としたらしく、何人か同級生らしい娘が、道を探していた。そこで、私が捜し物を踏んでしまってね。意識してではなく、たまたまだよ。全員下を見ていたから、誰が誰やらわからなかったし、誰のコンタクトかもわからなかった。弁償するという話になって、やっとその持ち主が真純だとわかったんだ。
それが縁で、真純と、その友達の娘たちと、最初はグループ交際のような付き合いができてね。それが少しづつ進展していって、今に至ると はは、途中を略したらわからないな」
Y氏が咽喉を潤し、一息吐く。私もそこでカセットテープの残量を確認してそれを取り替え、コーヒーにミルクを落として、一息つく。
「……真純を落としたのは、最期だった。最終的にグループ五人全員を落としたが、全員がそこそこには可愛かったから、結果的にそうなったんだがね。
最初は美津子という、真純より幼く見える娘だった。そばかすが残るあどけない表情とは逆に、結構胸の大きな娘だった。一番落としやすそうに見えたのも、一番セックスに対して興味が強そうに見えたからだ。事実、オナニーは毎日の習慣だったそうだし、加奈子に手伝わせて、すぐに落とした。そこから後は、自分から他を落とすのを手伝うほどの好き者になっていた。しかしグループの場合、最初の一人はどうやって二人きりになって、どうやって最後まで持ち込むか、そこが苦労するところだ。一人女の子の味方がいれば、相手も警戒を緩めてくれるんだがね。
次は英子だったな。スポーツ好きで、引き締まった身体と脚が印象的だった。ただ、一番奥手で、美津子が手伝ってくれなかったら、落とせなかったかもしれなかった。
その次が晶。一番大人びた雰囲気があって、背が高くて、高校生でも通用した。身体もそれに見合うだけ成長していて、五人の中では一番大人に近かった。ただ、セックスに対しては拒否反応が強くて、落とすのには苦労した。どうやら、高校生に見られることが多くて、色々ナンパされたり、痴漢に遭ったり、男に対するイメージが良くなかったんだ。だから、こいつは半ば無理矢理犯した。しかし、一度犯した後は態度も変わったよ。初めてでもほとんど出血もなく、すぐに馴染んだ。成長が早いだけはある、ということだな。 ラス前には知恵。好奇心が旺盛で、どちらかといえば知的なイメージがあった。ただ、知恵と晶は性格がキツいから、後回しにしたのを覚えている。知恵は完全に幼児体型で、セックスに関しては、保健体育でやった程度の知識以上には持ち合わせてはいなかった。五人の中で唯一生理がまだだったが、私がしたショックかどうか、初体験からしばらくして生理が始まったそうだ。
そして、最後に真純。周りが全員お手つきで、自分もその仲間に加わるなど、夢にも思っていなかったそうだから、四人に取り押さえられた時は、すごく驚いていたな。
暴れるかと思っていたが、すでに四人とも私の仲間になっていた事の方がショックだったらしい。力ずくでするのもいいが、相手がその気になってこそのイベントだからね。まずは説得を試みた。
すると真純は、思った以上に簡単に説得に応じた。少なからず、私に興味を抱いていたらしく、二人きりになったらどうしよう、などと考えないでもなかったらしい。
私は、メインディッシュなのだから、出来るかぎり優しく、彼女を導いてやった。滑らかで瑞々しい肌、小さいが薄くはなく弾力のある胸、華奢で柔らかな身体 」
私は、Y氏の微笑みに、再び狂気を感じる。氏の身体から、得体の知れないオーラが漂ってくるようだ。
「コトに及ぶまで、私は真純に快楽だけを与えた。優しく、わずかの痛みや不快感を与えることのないよう、細心の注意を払ってね。真純もすでに覚悟を決めていたようで、それを素直に受け入れてくれた。
さすがに、挿入という段階でも快楽だけ、というわけにはいかなかった。そんな方法があるなら、私が教えてほしいぐらいだよ。それでも、真純はそれを耐えてくれた 私が望み、思い描いたようにね。この瞬間を見たいがために、私は少女を手込めにしているのだからね」
私が意外な表情をすると、Y氏はそれに苦笑して、
「 手込め、と自分で言うのはおかしいかね? 私は、自分が何をしているかは自覚しているつもりだよ。少なくとも、世間一般に照らし合わせて、正常とは言い難い行為だろうとは思う。だからこそ、君もここに来たのではないのかね?」
その通りだ。私は小さく頷いて、続きを促した。
「……それからはしばらく、私は真純だけに愛を注いだ。他の娘たちも時々は相手をしてやったし、ああ、加奈子は家庭の事情でしばらくは私の元へも来られなかったが、やはり構い方が違うのはわかっていたらしい。それでもいい、という娘だけが私の元には残り、そうでなければ、私との関係は一切他言しない、という約束で離れていった。美津子と晶は最近まで来ていたが、去年高校へ入ると同時に、ここへはもう来ないと言って、それ以来逢っていない。真純だけは、週末には大抵来ていた。加奈子も受験生になって、あまり私の元へは来られなくなったし、真純も同じだったから、二人の代理を探しておこうと思っていた。
そんなとき私は、瞳に出会った」
瞳、というのがおそらく、今日のゲストの三人目であろうという私の推測は、見事的中した。
「 瞳とは、近くの公園で出会った。この先に緑地公園があって、私は休日の昼間、よくあそこに散歩にいく。一年ほど前、私は小説家としてデビューを果たし、会社を辞めていた。小説家といっても、主に官能小説だったがね。ただ、なり手が少なかったらしく、私ともう一人が食べていけるぐらいには十分な収入が得られた。同時に、前から時間がなくて出来なかった同人誌にも手を出し、年収からすれば約六百万ぐらいはあった。もちろん君もしているように、あらゆる手段で『節税』はしているがね。
そんな状態なので、私は平日の昼間にも公園を散歩するようになり、そのうち風景画を試そうと思い、スケッチブックなんぞを抱えて、画家のような気分でスケッチしていた。
そこへ、瞳が声をかけてきた。私の絵に興味を持ったらしい。
私は、彼女に出会って、久しく忘れていた感覚を思い出した。
濡れ羽色のような漆黒の『瞳』 そう、彼女の名前の通り、私は彼女の『瞳』に魅了されたんだ。
瞳とは、すぐに打ち解けた。瞳は登校拒否で、学校にもしばらく行っておらず、昼間家でじっとしていられなくて、時々こうして公園で散歩している、ということだった。
登校拒否の原因は、瞳はいじめだと言っていたが、どうも話を聞いていると妙な点が多いので、私はさらに深く聞き出してみた。
すると、彼女に対するいじめというのが、セクハラに近いいじめが非常に多い、ということらしい。いじめの相手は全て男、男子生徒や不良、挙げ句には教師にまで同じ目に遭わされたことがあるらしい。そのため、瞳はすでに四回も転校していて、友達も出来ない状態だった。その時も、転校した先で早々に、同じ目に遭っていた直後だった。
私は、自分の内の欲望を抑えながら、瞳の話や悩みを親身になって聞いてやり、助言してやった。同時に私は、そのいじめの正体について、調査をしてみた。
調査の結果は、興味あるものだった。別に彼女はおとなしいだけで、おどおどしているわけでもないし、同性からのいじめは皆無だったから、『いじめてちゃん』というわけでもない。それに、先も言ったように『性的な嫌がらせ』という部分から突き詰めていったところ、以前瞳の相談した児童相談所のある所員から、面白い話を聞くことが出来た」
……面白い話?
「……その相談所には、過去二件、同様の相談が寄せられたことがあり、その時には通り一辺の解決策しか示すことが出来なかった。が、その所員は自力でその原因を調査して、それを突き止めたと言った。
話によれば、これは『体質的な問題』であり、時が経てば解決するものであるらしい。しかし、自力でそれを解決するには、医師の詳細な検査と診断が必要で、一時的に薬品の投与なども必要だという。それがわかったときには、瞳はもう転校した後で、それを伝えることは出来なかったそうだ。
簡単に言うと、二次性徴期を迎えて、人の身体は性ホルモンを大量に分泌する。その時に、ごく稀に、性フェロモンの分泌が過剰になったまま、という場合があるという。
君の周りでも、どうということはないルックスだが、妙に異性にモテる人物を一人ぐらいは見たことがあると思う。もちろんその人物は、異性に対して人当たりが良くて、相手に親近感や安心感を抱かせるのが上手いものだ。だが、それは少年少女時代から、接近してくることの多かった異性に対するあしらいを自然と身につけたからであり、体質自体は後天的なものではない。人間の本能に訴えかけるものだから、性フェロモンが老化で弱まるまで、ずっと異性は引き寄せられることになる という話だ。
何分、こういう生理学という分野は、未だ以て未開拓であり、こういう社会生活に影響を及ぼしかねない分野については、全くの手付かず状態だ。普通ならまずないレアケースだから、余計に対応が出来なかったことが、瞳にとっては悲劇だった。
そこで、私は不思議に思ったことがあった。今まで男といえば『自分をいじめる存在』であったはずなのに、どうして私には自分から近付いてきたのか?
まあ、私は自分で言うのもなんだが、少女を警戒させないような手段なら、両手に余るほどに熟知しているつもりだ。が、その時は別にハンティングの下見に出ていたわけでもなく、気分転換に公園にいただけだった。
調査を進めていて、私は確認のため、連絡可能な少女たち一人一人に連絡を取り、直接逢ってある質問をしてみた。『私の第一印象はどうだった?』とね。
結果は、私の予想とほぼ合致するものだった。全員が多かれ少なかれ、『理由もなく私に妙に惹かれた』と答えたのだ。
つまり、どういうことかわかるかな?
私もまた、瞳と同じ『フェロモン過剰体質』だったんだよ。
私は、前出の相談員からある大学病院を紹介してもらい、自分の身体から発散されるフェロモン量を調べてもらった」
……なんとまあ、思いもよらない展開だ。ロリ関係の話を聞いていたはずが、いつのまにか医学的な検証の話になるとは。しかし、こういう展開は、私も嫌いではない。
「検査結果、私のフェロモンの量は、同じ研究室の研究生六人の平均値の、約八十七倍というものだった。私はこれで確信した。瞳はいじめられているのではなく、ただ異性を惹きつけていただけだ、と。
私は、その相談員の肩書きを借りて、瞳の両親に逢った。そして、私の検査結果を見せながら、瞳の体質について、両親の理解を求めた。彼女は特異体質ではあるが、時が経てば解決するものであり、二次性徴が完了するまでは、女子校で過ごさせるのが望ましいと進言しておいた。
しかし、瞳は当時、小学五年。小学校には女子校は非常に少ない。私立の小学校を探して転校させるにしても、両親の経済的問題があった。現に、今ここに瞳がいるのも、母親と二人でアパートで暮らしているのであり、父親は仕事の関係で京都の実家に住んでいるということだった。実家には瞳の姉がいて、実質家を二軒持っているようなもので、経済的にはかなり苦しかったらしい。
そこで私は、以前より目を付けていた私立の女子小学校を一つ、両親に紹介した。ここならいじめに遭うようなこともなくなるだろうし、そのままエスカレーター式に上に上がれば、女子中学・女子高と、体質が改善されるまでは安全に学校生活を送ることが出来るだろう、と。両親の希望としては、手元に彼女を置いておきたかったのだろうが、私が医学的な根拠を 実際、彼女に対しては何も証明してはいなかったのだが、それを見せたことで、そうせざるを得ないと思い込んだようだった。
ついでに私は、女性専用の下宿を一つ、紹介した。加奈子の友人がいるところで、その娘も『関係者』だったから、話は簡単だった。
結局、瞳は一人でこっちの女子校に通うことになり、両親は京都に帰った。問題が解決する頃には夏休みも終わり、瞳も学校に復帰するようになった」
あれ? もしかして、それで終わり? いや、そんなはずない。今日ここに呼んであるということは、「手込めにした」という事だから。
「……それから瞳は、毎日のように私の元に、つまりここに来るようになった。私は、彼女に対しては、できるだけ『頼れる大人』を演じていた。しかし、互いに体質がアレなものだから、期待していた関係になるのは簡単だった。
初めて彼女に手を出したのは、十一月頃だったな。といっても、キスと、少々悪戯した程度だった。そう、加奈子にしたように、まずは快感だけを覚えさせた。瞳も、抗いはしなかった。受け容れたというより、自分から求めてもきたから、やはり少しは期待していたのかもしれない。それからしばらく毎日、キスと触るだけの、一歩進んだだけの関係が続いた。
初めて瞳を抱いたのは、去年のクリスマスイヴの日だった。瞳と、その友達と、真純たちも交えての、泊まりがけのクリスマスパーティを開いたんだ。加奈子は大学受験を間近に控えて息抜きどころではなかったが、真純は早々と推薦で私立高校への入学を決めていたから、年末年始は人並みに遊んでいられた。
真純は、瞳にとっては『いいお姉さん』で、仲も良かった。だから、私が瞳を今夜犯すから手伝えと言ったところ、あまり賛成できかねる様子だった。瞳には、こういう世界は知られたくなかったようだった。
もちろん、それで私が止めるわけはない。瞳も、薄々は期待していたようであったし、私もそれに応えるつもりだった。
瞳は思ったとおり、いや、それ以上に素晴らしかった。加奈子や真純もそうだったが、私の行為に戸惑いながら、快楽から急に苦痛への変化に必死で耐えようとするあの瞬間」 そう、この狂気の光こそが、本物の証だ。私は、Y氏のその表情を見逃さず、仔細に観察した。ああ、どうせならデジタルビデオも持ってくるんだった。
「……今思い出しても、あの表情は私の身体に熱いものを蘇らせる。加奈子や真純の表情は、付き合いが長くなってきたせいか、初めての時はあまりはっきり思い出せない。瞳の表情が焼き付いて離れないせいもあるだろうがね」
その時、再び加奈子嬢がノックに次いで入ってきた。
真純嬢と、瞳嬢が到着したそうである。
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