序章
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2
3 4 5 終章
2.軍事学校時代・復讐
体中が痛い。
背中の、床と擦れた部分が、赤く擦り剥けている。
無理な体勢で責められたせいで、身体の関節が、特に腰が軋むように痛む。
クリームは、夜明けの光を窓から受けながら、旧校舎の床で意識を取り戻した。
静かだった。誰もいないのか――と思い、見回した先に、同じく倒れていて動かない
マーニャの姿があった。
「マー……!」
手を伸ばそうとして、身体の痛みはさほどでないことを、クリームは知る。
が、身体を起こそうとしたとき、股間に針を突きさされたような鋭い痛みが走り、思
わず動きが止まる。
両脚の付け根に感じられる、ぬるりとした感触。
指でそれを拭って、光にさらしてみる。
黒くなりかかった紅。そして、白い粘液。それらが入り混じって、指先にまとわりつ
いていた。
その時クリームは、気を失うまでの記憶を一瞬で蘇らせた。
――腕を押さえ付けられたまま、クラウストに服を剥ぎ取られる。
身体を這い回る、クラウストの舌。粘つく感触が、今も身体の至るところに残ってい
る。
『すげえ、すげえ立っちまうぜ――ああ、もう我慢ならねえ』
クラウストは、暴れるクリームの両脚を抱え込むようにして、秘洞の入り口に、天に
向かってたぎり立った凶器を押しつける。
『ち、ちいっとばかし濡らさねえと駄目か』
なかなか自分のモノを押し込めないクラウストは、今度はそれよりは細い指でクリー
ムの中へと侵入していく。
声にならない嫌悪感と、鋭い痛みが身体を突き抜ける。逃れようと捻る身体を、四人
の男がしっかりと押さえ付けている。
『ほれほれ、早く濡らさねえと痛えぞ』
クラウストは、クリームの股間に指を小刻みに出し入れするだけでなく、亀裂に収ま
っている肉襞を引っ張ってみたり、大きく広げてみたり、その上にある珠玉を包む薄皮
を剥き上げ、玩ぶ。
『ちくしょう、もう入れるぞ。まだるっこしいことなんぞやってられるか』
と、クラウストは、自慢の赤黒い巨砲をクリームに示す。
『どうだ? こいつが今からおめえに入るんだ。きっと、痛えだろうなあ』
クリームが泣き喚き、助けを求める姿をクラウストは想像しながら、巨砲の先から透
明な液を溢れさせる。
『やめてぇ!』
その時、クラウストにしがみつくマーニャの姿が、クリームの視界に入った。
『やめて、お願い――私はどうなってもいいから、クリームだけは、クリームだけには
ひどいことしないで!』
『うるせえ』
クラウストに突き飛ばされ、マーニャは床に転がる。
『おい、そいつも姦っちまいな。こっちの邪魔しないように、徹底的にな』
『わかりました』
『へへ、ただ見てるってのもヒマだからなあ。ちょうどいい暇潰しだ』
クリームの視界の端で、マーニャが男たちに組み伏せられ、服を剥ぎ取られていく。
押さえられた手が、マーニャを助けようと伸ばされる。
しかしそれは、数ミリ、マーニャに近付いただけであった。
『他人の心配するより、てめえの心配しな』
わずかに湿りを帯びたクリームの谷間に、クラウストが侵入を開始する。
押し入ってくるクラウストの凶器が、柔らかな襞を引き裂いていく。
布がゆっくり引き裂かれていくような音が、彼女の身体を、頭頂へ向かって全身に響
き渡りながら駆け抜けていく。
それは、痛みというより、衝撃に近かった。
無理矢理侵入してきた凶器を受け入れられるほど、クリームの秘洞はまだ柔軟にはな
ってはいなかった。痙攣の発作のように身体を仰け反らせ、口中の雑巾を千切らんばか
りに噛み締め、クリームは「衝撃」に耐えた。
しかし、一瞬の呻き以上の声は、彼女は決して上げようとはしなかった。
衝撃が過ぎ去ると、次は明確な痛みが襲ってきた。身体を引き裂こうとするような鋭
い痛みと、内臓を押し上げる重い痛みが、続け様に、同時にクリームを苛んでいく。
『う、おッ』
クラウストが、半分程挿入した時点で、その刺激に耐えられず、大量の粘液をクリー
ムの胎内に流し込んだ。
半ば呆然とした、恍惚の混じった表情で、クラウストは大きく息を吐く。
『……最高ォ、最高だぜクリームぅ……』
クラウストは、しかしそれでクリームの責めを終えたわけではなかった。
『思いっきり出しちまったのによぉ、全然出し足りねえ。このまま何度でもイけそうだ
ぜ』
と、未だ硬さを失わない凶器でもって、クラウストは責めの続きを開始した。乱暴に
突き上げられるクラウストの腰に合わせて、クリームが床に、軋みと共に擦りつけられ
る。傷を擦られる痛みと、腹の中を乱暴に突き上げる痛みと苦しさに、クリームは意識
を失うことも許されない。
自然にこぼれるクリームの涙にもクラウストは気付くことなく、ただひたすらに、欲
望と同じく直線的に腰を動かし続ける。
『あおぅッ……!』
突然、クラウストの腰が止まり、二度目の膣内射精が終了する。
『……へ、えっへへへぇ、三回目、行くぜぇ――』
クラウストの動きに合わせて、襞から白濁した粘液がこぼれ出してくる。それが尻肉
を伝い、床にこぼれ、クリームの動きに合わせて擦り付けられていく。
『痛ェか? 痛ェんなら、泣き喚いて許しを請え。俺に服従しろ。俺の奴隷になれ』
答えられないのを承知で、クラウストは乱暴に、クリームの腹の中を往復する。狭く
まだ硬さの残る洞穴を引き裂きながら、凶器が奥へ奥へと突き込まれる。
突然、クラウストの腰が止まる。
『おっ、うっ、出るぞ出るぞォ――』
無限に噴き出すのではないかと思う程の量の粘液を、クラウストはクリームに注ぎ続
ける。
『てめえはもう、俺のものだ。俺が毎日、てめえの中に出してやる。てめえが自分から
欲しがるまで、毎日毎日ブチ込んで、仕込んでやる。俺に奉仕することだけを考えるよ
うになるまで、徹底的に調教してやるぜ』
――抜かず五発を終えて、クラウストがやっとクリームを解放したとき、すでに彼女
は朦朧とした意識の下、身体を動かすことも出来なくなっていた。ただ、小さく痙攣す
るだけで、雑巾を口から抜かれても、叫ぼうともしなかった。そして、もはや同じよう
な状態のマーニャを気にする事も、彼女には出来なかった。
その後、おそらく取り巻きたちにも、少なくともそれぞれ一度以上は犯されたのだろ
う。気が付いたあとの、身体に残された大量の粘液の量が、それを物語っていた。股間
を中心に、腰の周りには液溜りが出来ていて、それが半分乾いて、クリームを床に引き
止めようとしていた。胸にも、顔にも、体中のそこここに、それは生乾きでこびりつい
ていた。
身体を起こすまでに、クリームは数分を要した。痛みを堪えるだけならともかく、身
体が「動け」という命令を実行できずにいたのである。
「……マーニャ……」
クリームは、倒れているマーニャの隣まで這っていって、同じように汚された身体か
ら、白濁した粘液を指で拭おうとする。
「……リー……」
「マーニャ?」
気が付いたマーニャの頭を、クリームは抱き起こす。本当は自分が介抱してもらいた
いぐらいであったが、マーニャを放っておくことはできなかった。
マーニャは、クリームの顔を見ると、無理に微笑んでみせた。
「……大丈夫?」
クリームは、マーニャの乱れた髪を直してやる。
「……うん……一応、ね……」
二人とも大丈夫とは言えないながらも、解放されたことに、一応の安堵を覚える。
そこへ、誰かが走ってくる音。
近付いてくるその足音に、二人は身体を硬直させる。
「クリーム! マーニャ!」
戸口に現われた、サスティナとベロニカの姿に、二人は再び安堵した。
そして、疲労と、出血による貧血のため、クリームは再び気を失った。
クリームは、ベッドの中で目を覚ました。
しばらく、そこがどこであるかを判断できずに、辺りを見回す。
「気が付いた?」
その声に、クリームは、ここが自分の部屋であることに気付く。
声の主であるマーニャは、ベッドサイドで、穏やかな笑みを浮かべながら、クリーム
を見つめていた。
「マーニャ……」
「まだ寝ていなさい。疲れているし、傷ついてもいるんだから」
クリームは身体を起こそうとして、それが非常な困難をともなうことを知ると、マー
ニャの言うとおりにする。
「……あなたは大丈夫なの?」
クリームの問いに、マーニャはクリームに毛布をかけなおして、
「あたしは初めてじゃなかったから――だから、もう大丈夫よ」
微妙に悲しさを振りかけた弱々しい微笑みに、クリームはクラウストの所業を記憶野
から引き出した。
そこに、ノックの音。
サスティナとベロニカである。
「ごめん」
ベロニカは、クリームが気付いたのを知ると、まず頭を下げた。
「あなたのこと疑ったことだけは、どうしてもまず謝らなくちゃいけないと思ったの。
単に、最後の標的にされていただけだったんだって」
「私も謝らないとね。あなたのこと、わかってたはずなのにね。ごめんなさい、クリー
ム」
同じく、サスティナも頭を下げる。
「いいわよ。わかってくれただけで」
クリームは、二人に微笑みを返す。
「……ところで、どうして私たちがあそこにいること、わかったの?」
「ヒルダが報せてきたのよ。あなたたちが、クラウストに旧校舎の溜り場に連れていか
れたって」
「ヒルダが……そう」
クリームは、クラウストの仲間になったヒルダの、あの厳しい、そして寂しげな眼を
忘れてはいない。
彼女は、仲間を売った代償として、自分の未来を手に入れた。そして、信頼という、
目に見えない絆を断ち切った。それはもう、二度と結ばれることはない。それを承知で
ヒルダは、選択したのだ。
「ヒルダ、あれから全然姿を見ないんだけど、どうしたのかしら」
ベロニカの言葉に、クリームは天井を見つめて、静かに答えた。
「ヒルダは……もう戻ってはこない」
「え?」
「……彼女は、私たちとは違う道を行き始めたのよ」
「どういうこと?」
疑問を向けられて、クリームは、ぽつりと答える。
「……ヒルダは……クラウストに従ったのよ」
「――なんですって?」
クリームの言葉は、サスティナも、ベロニカも信じられなかった。
しかし、クリームの、そしてマーニャの態度が、それを事実として二人に認識させて
いた。
「ヒルダが……!」
ショックと怒りが、サスティナとベロニカを満たす。しかし二人は、それをどうした
らよいのか、扱いかねているようにも見えた。
「私は」
クリームは、そこで無理に起き上がる。
「だめよ、まだ寝てないと」
寝かせようとするマーニャを制して、痛みを堪えながら、クリームは続ける。
「私は、ヒルダを恨んではいない。彼女には、彼女の選択があったのよ。クラウストの
仲間になることがどういうことか、彼女にもわかっている。それでもなお、それをヒル
ダは選択せざるを得なかったんだと思うわ」
「……!」
サスティナとベロニカは、悲痛な表情で、黙っている。
怒り、悲しみ、怨恨、同情――様々な感情が、部屋を駆け巡る。
「でもね」
クリームは、決意を眼にしていた。
「クラウストだけは――絶対に許さない」
三人は、はっと顔を上げる。
「あの男には、然るべき報いを与えなければならない。私だけじゃない、マーニャを、
サスティナを、ベロニカを、ヒルダを、そして辞めていった娘たちを食い物にした、そ
の報いをね」
それは、単なる決意ではなかった。
確実に、クラウストは「報い」を受ける――それも、もっとも悲惨な形で。
マーニャも、サスティナも、ベロニカも、クリームの眼の色から、それを感じ取って
いた。
「これは戦争よ。私たちと、クラウストの」
クリームが、三人を見る。
「今までは防戦一方だった。でも、今からは、こちらから反撃をかける番よ」
三人の眼にも、決意が浮かんでいた。戦わねば、蹂躙されるだけであるから。
その二日後。
クラウストは上機嫌で、溜り場の旧校舎へとやってきた。
その手には、クリームからの手紙があった。
『親愛なるクラウスト・バーコフ様
私たち女子生徒二回生一同は、協議の結果、クラウスト先輩のご要望に、出来るかぎ
り従うことを決定いたしました。
この決定に際しまして、代表者として、私クリーム・ガノブレードより、お話をさせ
て戴きたいと思います。
つきましては、本日放課後、本件に関しましてお話をさせて戴きたく、旧校舎の、い
つも使用されている部屋にて、お待ち申し上げております。
なお、代表者同士の話し合いの場として本会談を成立させたく、出来ればお一人でお
いでくださいますよう、お願い申し上げます。
クリーム・ガノブレード』
「クリームちゃん、来てるか?」
クラウストが、溜り場の部屋に一人で入ってくる。
「お待ちしておりました、先輩」
クリームは、部屋の奥で一人、待っていた。
「手紙、読ませてもらったぜ。これは俺に服従する、という意味にとっていいんだな」
「……はい」
クリームは頷いて、部屋の中央に来る。
「それに関しまして、少々お願いがあります」
「ほう、何だ? 言ってみな」
クラウストは、入り口の柱にもたれて、腕組みして問う。
クリームは、積み重ねられた古い机の脇のソファへと歩いていき、
「こちらで座ってお話ししませんか?」
「ここでいい」
クラウストは、クリームの表情の変化を、わずかたりとも見逃そうとしない、といっ
た目で答える。
「……なあ、クリームちゃんよ」
「なんでしょうか?」
「何で俺に従う気になったんだ?」
クラウストの問いに、クリームは一瞬、困惑したような表情を見せる。
「それは――私たちにも、色々理由がありまして……軍に入らなければ、生活出来なく
なる娘もいるものですから、下手に抵抗して出ていかざるを得なくなるよりは、ここは
先輩方に従ってでも、軍に入ることが先決であると判断したからです」
「嘘だな」
クラウストの言葉に、クリームは目に見えて動揺する。
「俺をここへ呼び出すためには、こう言うのが一番いい、と思ったんだろう?」
「そ、そんなことは……」
「ない、とでも言いたいのか?」
クラウストは、手紙を放り、入り口近くにあった椅子を、無造作にソファとの間の床
に放る。
床に椅子が転がった瞬間、天井を突き破って、机や椅子が落ちてきた。
投げられた椅子は、それに押し潰され、完全に破壊されていた。
「……クリームちゃんの誘いに乗っていたら、俺はこうなっていたわけだ」
表情を固めるクリームを前に、小さく笑うクラウスト。
「俺をナメんなよ。その程度の仕掛け、読めないとでも思ったか」
クラウストが指を鳴らすと、その背後に、取り巻きたちが現われる。
「先にここは調べさせてもらった。二階の仕掛けは、こいつ一個だけ残して、全部外し
てある。俺に仕返ししようとするには、ちょっと考えが浅すぎたな」
クラウストを先頭に、取り巻きたちが、部屋に入ってくる。
クリームの怯えた表情はどんな顔か――クラウストがそれを確認しようとしたとき。
彼女は、微笑んでいた。
それは、クラウストの予想にはなかった表情であった。
「所詮、その程度なのよね、あなたの読みは」
嘲りを含んだ笑みを、クリームはクラウストに浴びせる。
「何?」
クラウストは歩を止める。合わせて、取り巻きたちも立ち止まる。
クリームは同時に、開け放たれていた窓を乗り越えて、外へと逃げる。
「逃がすな! あのアマ、今度こそ逆らう気などなくなるぐらいに――」
その時、旧校舎が揺れた。
校舎に残ったクラウストたちは、何が起こったのか理解できなかった。
突如、天井が落ちてきた。
天井を破って机や椅子が落ちてくる、などといったレベルではない。
建物自体が、彼らの上にのしかかってきたのだ。
彼らが叫び声をあげる間もなく、校舎は崩れ、完全に倒壊した。
「クリーム!」
立ち篭める砂埃の中へ、マーニャが駆けていく。続いて、サスティナとベロニカ、そ
して一回生の女生徒たち。
「……マーニャ?」
咳き込みながら、クリームは埃に塗れた姿を現した。
「クリーム!」
マーニャが、クリームに抱きつく。
見上げるマーニャに、クリームは親指を立てて応える。
やってきたサスティナとベロニカにも、クリームは作戦の成功を伝える。
それは、二重の罠であった。
まず、予め部屋の天井に、発見されることを前提とした罠を設置する。そして、同時
に本物の罠を仕掛けておく。それは、旧校舎が取り壊しを待つ状態であったことを利用
したものであった。予め校舎を倒壊寸前の状態にしておき、そこへクラウストを呼び込
む。一人で来いと言われて、罠が待っていたと知れば、一人で来るはずがない。それを
逆手にとって、取り巻き連中も一斉に始末する。対人用の小さな罠を解除したと思わせ
ておけば、旧校舎全体を使った罠にはまず気付かない。それは、クリームの演技による
ところもあった。全員を部屋の中に完全に引き入れた時点で、クリームは脱出する。同
時に、女生徒全員の協力によって、校舎を倒壊させる。もちろんクリームが、もっとも
効果的に校舎を倒壊させる方法を先に調べておいたからである。それをたった一日で仕
掛け終わったのは、女子生徒全員の一致協力の結果でもあった。
「……死んじゃったのかな……」
一回生の一人が、薄れてきた埃の向こう、完全に潰れた校舎を見て呟く。
が、クリームは、敗北したクラウストらの方を見据えて応える。
「言ったでしょう? これは戦争。戦争なら、死ぬのを覚悟で立ち向かわねばならない
のよ。軍人になるのなら、それくらいの覚悟は必要よ」
クリームの言葉は、彼女に向けられたものだけではない。
それは、自分自身にも言えることなのだから。
「さ、もう行きましょう。誰かが来る前に」
クリームがその場を去ると、全員が思い思いの方向へと去っていった。
ただ、彼女たちの表情は、ここへ集まった時とは違い、晴れ晴れとしていた。
クラウストは、奇跡的に助かった。
ただ、頭蓋骨骨折により脳が傷つき、全身二十数ヶ所の骨折とも合わせて、一生回復
しない後遺症を負った。もう軍に入るどころか、正常な人間としての生活は送れない、
との診断結果が出た。
それを聞いたクリームは、完全に溜飲が下る思いであった。死者も出たが、クリーム
はそれを気にすることはなかった。クラウストのことを考えれば、死んだ方がいくらか
ましであったかもしれない。
校舎倒壊の件は、自然倒壊として片付けられ、クラウストらが以前からここに入り浸
っていたことも知られていたから、全て事故として片付けられた。クリームら女生徒に
嫌疑がかかることは、一切なかった。
が、クラウストの仲間でありながら、たまたま難を逃れた一人は、それをクリームの
罠だと知り、非常に恐怖した。彼はクラウストの仲間ではあったが、女生徒の強姦事件
にはこれもたまたま関与していなかったため、クリームも特にどうこうしようという気
はなかった。強姦事件に関与していたら、いずれ相応の報いを受けたであろう。彼は卒
業まで、非常にビクビクしながら毎日を過ごしていき、女生徒に出会うたびに、その場
から逃げるようにいなくなった。
その怯えようが男子候補生を掣肘したのだろう。女子生徒に対する嫌がらせは、以来
一切なくなった。
そして、クリームとこの一件の噂は、陰で広まっていた。
特にクリームの噂は、この言葉に集約された。
「クリーム・ガノブレードは、やはり知将バルジ・ガノブレードの孫だ」と。
――ヒルダは、クラウストが軍事学校から消えると同時に、学校から姿を消した。仲
間を裏切ったことへの気まずさからか、それとも他に自分の道を見つけたのか、誰にも
知られることはなかった。サスティナとベロニカは彼女を許さないかもしれないが、ク
リームは、戻ってくるなら、黙って迎えようと思っていた。
しかし、結局ヒルダは戻っては来なかった。
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