宇王伝

5 結

   3. 解放の鍵

 アルザスを除く十七人の盗賊は、ことごとく明日香の一撃か、もしくは触れずに行動力を奪われていた。明日香の〈宇旋〉は、相手に触れる事無く〈気〉の操作を行い、身体の自由を封じた。ただでさえ精気を抜かれていたところへ〈気〉の操作を受けては、抵抗力のない盗賊では、一瞬にして昏倒するだけとなっていた。
「……十七、と」
 転がった十七人を一部屋に集めて、もう一度〈宇旋〉を食らわせて確実に眠らせ、とりあえず明日香は服を探す。裸のままでは村へ報告にも行けない。
 自分の服を捜し当て、さて戻ろうかと思ったとき。
 「光」が飛んできた。
 〈瞬光弾〉   思ったときには、光のエネルギー弾はすでに命中していた。
 しかし明日香は、並みの人間なら一撃で死ぬこともあるその魔法弾を、右手の甲で防ぎ切っていた。
「やるじゃねえか……さすがだねぇ」
 外の光を背に、洞窟の入り口に、アルザスが立っていた。
「思い出したぜ。《気》を自在に操る武術   大気拳、でなければ宇道だな」
「物知りね」
 右手を擦りながら、明日香は微笑む。〈宇〉で護られた身体は、少々の魔法など容易く防ぐ。
「こんな稼業やってるとよ、誰が敵に回るかわからねえからな。どんな場合でも対処できるようにしておくのが、俺の役目なんでね」
 なるほど、道理で〈宇〉の効きが悪いわけだ   魔導士ということを差し引いても、アルザスはかなりの抵抗訓練を積んでいるのだろう。ただでさえ、魔導士は魔法を使うために気功の訓練を重ねているから、元より抵抗力は強い。
「それに、あんたの対処法はもうわかっている」
 アルザスが、もう一度魔法を練り上げようとする。
 その時、明日香の〈宇〉は、一瞬でアルザスを包囲していた。
「悪いけど、あなたには一年ぐらい眠っていてもらうわ」
 アルザスの身体を包囲した〈宇〉は、瞬時にその身体の機能を生命維持に最低限のレベルにまで落とし、全ての行動力を奪うはずであった。
 しかし。
「対処法はわかってるって言ったろう?」
 アルザスは、勝利の笑みを作る。わずかに〈宇〉の侵入を許してはいるものの、行動力を奪うどころか、僅かに気を弱めたに過ぎなかった。
 明日香は、それなら方法を変えるまで、と接近戦を試みる。
「お前の攻撃も、俺には通用しない」
 アルザスの魔法が完成する。
 明日香に向けて、それが投射される。
 〈宇〉を纏った左手が、それを弾き飛ばす。
 アルザスの笑みが、勝利を確信した。
 明日香の手に、「それ」は食らい付いている。
 しかし、その発動が一瞬遅れたせいで、アルザスは明日香の掌打を食らい、外へ七メートルほど飛ばされた。
 そして、「魔法」は発動した。
「!!」
 明日香の左手から、「それ」は一気に駆け昇り、身体の中心で爆発した。
「かっ……!」
 全身に衝撃が走り、明日香はその場に倒れる。
 胸の中央より、波紋のように爆発的に広がっていくそれは   
「……へ……へへ……甘かったなあ、俺も……だがよ   
 アルザスは、打たれた胸を押さえ、口から血を流し、木にもたれながら、上半身だけを起こす。
「効くだろう?……前にそいつを食らわせたとき、おかしいとは……思ったんだよ」
 明日香の目はすでに焦点が合わず、小さく呻くだけで、身体を縮めて震えている。
 そう、それは、明日香がここに連れてこられたとき、初めてアルザスが明日香に施した魔法、〈プレジャーブースト〉である。簡単に言えば、人間の受ける快楽を増幅して、理性による歯止めを抑制する魔法である。別名「ドラッグ・マジック」とも言われ、一部の高級娼館で使われているだけの、魔法の全てを束ねる魔導士ギルドからも認定されていない、出所不明の怪しいローカル魔法であった。
 アルザスは以前、それを娼館付の魔導士よりいくらかで買い取って覚えた。目的ははっきり言って「ナンパ」のためであったが、盗賊に身を投じてからは、女をさらうのに利用した。本来接触型であったこれを、近距離型に改造して離れた相手にも有効にし、ついでに快楽の増幅だけでなく「快楽の発生」を組み込み、今では完全なアルザス・オリジナルの〈プレジャーブースト〉、〈APB〉として完成している。
 それが明日香に劇的な効果をもたらしたのは、〈プレジャーブースト〉が〈宇解〉と同じ作用を持っていたからに他ならない。ペルフェウスの元で、快楽に対する抵抗力を限りなく削ぎ落とされていた明日香には、これは致命的とも言える弱点であった。もっとも、それに気付き得る者など、そうはいないのだが。
 しかし、それを知られた以上、明日香の勝利は極めて困難となった。
 それがわかった時点で、アルザスも意識を失った。

 先に盗賊たちが動けるようになったのは、彼らにとって幸運であった。
 まずアルザスが意識を取り戻し、自分を治療し、まだ効果の残っていた明日香にもう一度〈APB〉を投射。悶え転がる明日香を放って、仲間を助けた。
「このアマ、とんでもねえ奴だ」
「もったいねえがバラすか」
「まあ待て」
 アルザスは、先の一戦で判明した、明日香の致命的な弱点について話す。
「せめて、次の女が見つかるまでは、こいつは生かしておいてもよかろう。なあに、そのうち頭がイカれちまえば、逃げるも抵抗もなくなるだろうさ」
 アルザスが自信を持って言うので、また他に女がいなかったこともあって、明日香はとりあえず生かしておかれた。
 しかしそれは、盗賊たちの慰み者として生かしておかれるだけであり、人間としての扱いではなかった。
 アルザスは、〈APB〉を二日に一度明日香に投射する。初めてここに連れてきた時、明日香は三日間、その効果に狂っていた。確実を期して、また「仕事」に出ることを考慮して、一日置きなら安全であろう、とアルザスは判断した。
 明日香は全裸のままアジトの一室に監禁され、鎖付きの首輪で拘束され、盗賊たちに凌辱される毎日が続いた。
 盗賊たちも、十分に調教されたこの女を、休ませる事無く楽しんだ。時折、我慢できなくなった者が身体を拭うか、水浴びをさせてやるとき以外、誰かが彼女を凌辱していた。三日間で、膣内はもとより、口も、肛門も、顔も、身体も、手も脚も、鼻の穴や眼の中にまで、男たちの精液がかかっていない場所はなくなった。
 最初の三日、明日香に与えられたものは、男たちの精液だけであった。四日目からは、水欲しさに、男たちの小便まで飲むようになった。七日目になって、アルザスがまともな食事を与えても、食べさせてやらなければ口にしようとはしなかった。
 排便も、男たちの前でのみ許された。部屋の中で垂れ流せば臭いが残るので、おまるが用意されていた。
 ペルフェウスの元での痴態が、そこで再現されていた。違うのは、主人が複数いて、休息がなかったこと。交替で続けられる凌辱は、止まることがなかった。
 十日がそうして経過した頃、クレインは妙なことに気付いた。
 手下たちが、徐々に怠け者になっていたこと。かくいう自分も、最近何をするにも億劫で、こうして考えるぐらいしかする気がない。
 そろそろ食料も心許なくなってきて、「仕事」に行かなければならないのだが、何にせよ、やる気が起きないのだ。
「だからほどほどにしておけと言ったんだ」
 アルザスだけは、明日香の危険性に途中で気が付き、仲間に忠告していた。自分が満足するまで姦っていたら、そのうち自分が危なくなる、と。
 しかし、ほとんど本能の赴くままに生きてきた彼らに、そんな忠告が素直に容れられるはずもない。朝から晩まで、寝るときと、用便と、簡単な食事をする以外には、大半が明日香の部屋に入り浸っているようになった。
 では、当の明日香はどうであったか。
 身体は常に快楽に満たされていて、それ以外の感覚はなくなっていた。
 しかし、それでいて理性は、却って明瞭に自分自身を観察していた。
 それは、自分自身の肉体を制御し得る力が残っていた、ということではない。もう一人の、別の自分が、凌辱されている自分をじっと見ている。そんな感じであった、と後に明日香は思い出す。
 当時の肉体の感覚を再現するとき、明日香は「徐々に身体が周囲と一つになるような、世界に溶けていくような感じだった」と言う。
 同時に、彼女の別人格(理性)は、異様な〈宇〉の高まりを感じている。
 男たちの凌辱を受け、アルザスに魔法をかけられ、快楽に浸る毎日が、理性によって忘れさせられていた「何か」を、思い出させていたのかも知れない。

 その日、明日香は朝から気分が悪かった。
 アルザスは気付いていなかったが、慣らされたためか、〈APB〉の効きが落ちていたため、身体から久しぶりに快楽が抜け、理性が回復していたのだ。ちょうど周りからも男が消えていて、数日ぶりにまともな睡眠を取った直後であった。
 痛む身体を起こしたその時、明日香は吐き気を覚える。
 それを我慢して、部屋を出る。首輪は邪魔になるので、かなり前に外されていたままになっていた。
 水場に着いて、胃の中の込み上げるものを我慢して、水を飲む。
 途端、それが逆流してきた。
 吐いたものといえば、飲まされた精液の残りだけであったが、とりあえずそれで吐き気だけは収まった。
 口を濯ぎ、身体を洗って、もう一度水を飲んで、明日香は考える。
 ここに捕まって、どれくらいになるだろうか。一ヵ月か、二ヵ月か? 時間の感覚のなくなっていた明日香には、監禁されていた時間などわからない。しかし、ろくな食事も取っていなかった割には、体調はさほど悪くないのはなぜだろうか? 気力に至っては充実すらしている。
 とりあえず、空腹を満たしたかったため、明日香はアジトへ戻る。
 食料庫には、保存食である塩漬けの干し肉と少々の魚の薫製、ワイン樽一つしか残って いなかった。
 仕方なく、干し肉を齧り、近くにあった木のマグカップに少しワインを注ぎ、内側を洗って、もう一度なみなみと注ぐ。
「……何これ」
 ワインは保存状態が悪かったのか、半ばワインビネガーと化していた。
 しかし、明日香は構わずにそれを飲み干す。味はさほど悪くはないし、舌にはその久々の酸味が馴染んだ。
 そうしてワインを三杯ばかり空けて、多少腹が膨れたところで、これからどうするかを考える。
 とにもかくにも、ここを脱出することが先決であった。理性があるうちに、そして気力があるうちに、逃げなければならなかった。
 人の気配がないのを確認して、さらに奥の倉庫で服を一揃い着込む。男物しかないのは仕方がない。サイズが合わないのも無視して、袖や裾は折り曲げて無理に着た。ブーツは靴下を重ねることでサイズを何とか合わせられた。
 倉庫を出ると、誰かが起き出して来る前に、早々にアジトを抜け出す。
 木の隙間から、街道が見えた。あそこまで出れば、峠の村までは行けるだろう。
 明日香は、可能な限り急いで、森を進んでいった。

「逃げられただぁ!?」
 アルザスは、さすがに黙っていられなかった。
 見張りもいなかった、鎖にも繋いでいなかった、それで逃げられたと報告があった時、目の前の報告してきた部下に、思わず〈火球〉でもぶつけてやろうかと思った。
「バカ野郎! 治安兵でも連れてこられたらどうする! とっとと捕まえてこい!」
 クレインにも怒鳴られて、手下たちは急いで捜索に出る。
 念のため、数人をアジトの荷物整理に残し、いつでもここを引き払う用意をする。
「俺も行ってくる。連中だけじゃ返り討ちに遭うのがオチだろうからな」
 アルザスも、クレインに後を任せてアジトを出た。

 盗賊のアジトから峠の村まで、小一時間ほどの距離だった。意外と近くにあったのだ。
 明日香の姿に、村人たちは一様に驚いた。
「あんれまあ、生きとっただかね」
「てっきり死んだもんだと思っとったよ」
 明日香が村を出てから、三週間余りが経過していた。随分長く監禁生活を送っていたのだな、と明日香は我ながら感心する。
「よう帰りなすったなあ。まあ、とりあえず休みんされ」
「それどころじゃありません。盗賊のアジトは、思ったより近くにあります。誰か、麓の町まで治安兵の派遣を頼みにやってください。それから、残った人たちは、一応盗賊の襲撃に備えておいて下さい。相手は全部で十八人、魔導士が一人いますが、村人全員でかかれば十分追い払えるはずです」
 明日香の言葉に、村人が響動めく。
 村長は明日香の言葉を一応は信じたようで、村の男たちに、農機具など武器になりそうなものを各自用意しておくように言っておく。
「詳しい話は、わしの家で聞きますけ」
 村長の家で、明日香は地図を見せられ、街道が見えたことから、大体このあたり、とアジトのあたりをつける。
「わかりゃんした。若いもんを麓へやっときます」
 村長は、すぐに村の若者を一人、麓の町へと走らせる。
 村は厳戒態勢に入り、男たちが手に手に鍬や鋤や鎌などを持って、何人か一組になって村の周りの監視に就いた。
 治安兵がやってくるまでの一日、村人たちは眠れぬ夜を過ごしていた。明日香も、眠るわけには行かなかった。
 翌日、数人の治安兵がやってきて、後から五十人余りが来てアジトを急襲すると話したのを聞いて、明日香はやっと、約一ヵ月ぶりの、安心した眠りに就いた。
 その後、アジトは治安兵の襲撃を受けて、盗賊たちは大半が捕らえられた。頭目のクレイン、魔導士のアルザス他数名がなおも逃走中であるが、捕獲は時間の問題、という治安兵の言葉に、村人たちは一様に安堵の表情を見せた。
「修業の出来る場所、ですかいのう」
 明日香は、盗賊団駆逐の功績者として、峠道の開通を待ち望んでいた麓の町の町長や、もちろんこの峠の村の皆から感謝された。そして、何か出来ることがあれば、出来ることなら力になる、と村長が申し出たのに対して、明日香は「武術修業の出来る場所」を紹介してもらうことにした。
 修業の出来る場所とは、一人になれて、自然に満たされた場所。簡単に言えば、山中や森のど真ん中に、雨露をしのぐ場所と水場のあるところである。
「それなら、この先の猟師小屋を使うといいんじゃないかね」
 村の近くを流れる谷川の支流の水源がこの先にあり、近くに猟師小屋があるという。 そこで、明日香はしばらく修業することにした。

 その日、明日香は吐き気で起きた。
 昨日も同じようなことがあった。そういえば、盗賊のアジトでも同じ事があったな   
と、明日香は思い起す。
 もしかして悪い病気ではないだろうか、と考える。三週間あまり、ずっと男たちの玩具にされてきたのだ。
「……そりゃああんた、悪阻じゃないかね」
 一日一回、昼過ぎに村から食事を運んできてくれる老婆が、それを聞いて笑った。
「……悪阻?」
「赤ん坊じゃよ。今頃悪阻になるちゅうことは、まあ盗賊どもの種じゃあないじゃろうがな。あんた、心当たりはあるかね?」
 明日香は、思わず眉を顰める。
 時期的に、その時の相手といえば、一人しかいない。
「そんな身体で武術修業もないもんじゃで、早いとこ旦那のとこ、帰った方がいいでよ」
 老婆はそう言うと、村へ帰っていった。
 それを見送りながら、明日香は拳を握り締めていた。
 冗談じゃない   妊娠?
 しかも、ペルフェウスの子供?
 拳が、思わず小屋の壁を殴る。
 今の自分には、子供を育てる気はないし、そんな時間もない。ましてや父親は、仇敵である男なのだ。
 産まれてくる子供には罪はない   強姦されて、孕まされて、堕ろすことの出来なかった女たちに、そう言って慰める者がいた。それはそうだが、では望まずして孕まされた女はどうなる? 彼女の人生は、望まざる妊娠によって、大きく捻じ曲げられるのだ。
 明日香は、このまま子供を生むことは復讐をあきらめることだと思った。
 あの男の子供を生むことは、正にそれである。
 明日香の歩みは、谷川を望む崖に向かっていた。
 高さは七・八メートル。途中に岩が突き出ている。
 あれに当たったら、痛いだろうな   以前それを見たとき、明日香はそう感じた。
 それを今、実行することになろうとは。
 動悸を抑え、身体の震えを鎮めようとして、明日香は深呼吸する。
 我ながら、無茶苦茶な方法だとは思う。
 しかし、確実に実行できそうなのは、これぐらいしか思い浮かばなかった。
 数回深呼吸して、動悸だけでも無理遣り抑える。
 そして明日香は、谷川へ降りるように、崖を一歩踏み出した。
 突き出した岩に向かって、明日香は身体を泳がせる。
 そして、目を閉じた。
 鈍く、重い衝撃が腹を打つ。
 嘔吐しそうなほどの衝撃が、全身を揺さ振る。
 そのまま明日香は、谷川へと落下した。
 水の冷たさが、痛みに近い感覚となって意識を覚醒させる。
 意識があるうちに、明日香は岸へ何とか流れ着いた。
「!……ッッ」
 腹部の痛みに、明日香は思わずうずくまる。
 鈍く、奥深くから生じる痛みは、堪え難いものがある。
 呼吸の度に胸が痛むのは、肋骨を折ったせいだろうか。咳き込んで水を吐くと、気付きはしなかったが、薄桃色に染まっていた。息苦しいが、無理に呼吸を整えようとすると、鋭い痛みが襲ってくる。
 しばらく身体を縮めたままじっとしていると、少し痛みは収まってきた。
「……なんで……あたしがこんな目にッ……」
 悪態を吐きながら、明日香はよろよろと立ち上がる。
 すでに辺りは暗くなっていて、身体もほぼ乾いていた。
 歩こうとして、明日香は股間に何か、ぬめる感触を覚える。
 手を入れて、そのぬめりを見る。
 鮮紅色が、そこにあった。
 しばしそれを眺めて、明日香は力なく笑った。
 虚しい達成感を背に、小屋への道を、力ない足取りで進む。
 小屋へ着くと同時に、藁のベッドへ倒れこむ。
 「呼吸法」で体内の気を整えると、いくらか痛みは和らいでくる。
 それが我慢できる範囲になると、貧血のせいか、明日香は意識を失うように、眠りに堕ちた。

 まる一日休み、明日香は何とか起きられるようになった。
 しかし、腹に重さが残り、まだ起きられるだけであった。肋骨も、気功治療を自分で施したが、完治しているわけではない。
 もう二・三日は無理は利かないか   今日は水浴びと洗濯だけして、後は休むことにした。食事も少しは取れるようになったから、回復も早くなるだろう。
 すっかり暖かくなったこともあり、また人もいないため、明日香は水浴びの後、裸のまま洗濯を終えて、小屋に戻る。
 扉を開けた瞬間、「光」が明日香に打ち込まれた。
 何が起こったのか、明日香は理解できなかった。
 しかし、直後襲ってきた爆発的な「快楽」   その正体と、何が起きたのかを知った時には、明日香はまたも、〈APB〉の支配下に入っていた。
「見つけたぜ、明日香ちゃんよぉ」
 アルザス、クレイン、他三人の盗賊が、小屋で待ち構えていたのだ。
「あんたのお陰で、えらい目に遭わされた。手下も大半とっつかまっちまった。これじゃあもう盗賊もやっていけねえ」
 腹を押さえて床に転がる明日香の頭を踏んで、クレインは言い捨てる。
「ま、アルザスが逃げ延びたのは不幸中の幸いだったな。お陰で、こうして明日香ちゃんに復讐できる」
 笑うクレイン、アルザス、そして手下たち。
 しかし、それを聞いていないはずの明日香は、クレインの足首を握り、すくい倒した。
「何ィ?」
 それに一番驚いたのが、アルザスであった。
「はっ、進歩しないわねえ……」
 立ち上がり、よろめく明日香は、目だけは十分に生きていた。
 辛そうな表情はしていたが、今の明日香には、この程度の快楽なら耐えられないことはなかった。何度も投射されてきた魔法だけに、耐性がついていただけでなく、快楽そのものにも耐性がついていたのである。
「同じ魔法がいつまでも効くほど、宇道拳士は甘くはないよ」
「それなら、何度でもブチこむまでだ」
 アルザスが、二発目を明日香に投射する。
 避けようにも、これは避けられる魔法ではない。術者の目に見えた目標に必ず命中するタイプの、抵抗型魔法である。
「……!」
 さらに拡大して、明日香を襲う、暴風のような快楽。
 歯を食いしばり、身体を縮めて、明日香は魔法に抵抗する。
 ここで食い止めなければ、またあの時と同じになる   
「畜生、このアマ!」
 起き上がったクレインが、抵抗できないでいる明日香を床へ引き倒し、手下に手を押さえさせ、脚を広げさせる。
「へへ、スッポンポンでうろちょろしてやがって。姦ってくれって言ってるようなもんだぜ」
 クレインの指が、明日香の陰裂へ捻じ込まれる。指は抵抗なく、ぬるりと一気に第二関節まで飲み込む。
「うぁっ、かっ……!」
 抵抗していた明日香の精神力の壁を、クレインの指が突き破る。
 そこから快楽の津波が流れこみ、理性の村を押し流していく。
 何度か指を抜き差ししただけで、明日香はすでに絶頂へ到達する。
「へっ、もう十分壊れてやがる   大したもんだよ、その魔法は」
 クレインが、ベルトを外してズボンを下げる。
「さぁて、前みたいに俺達の奴隷に戻ってもらうぜ、明日香ちゃんよ」
 そそり立つ凶棒が、明日香の肉裂に隠れた小粒を撫で擦る。br 「ひぃあっ、はがっ   
 その刺激に、明日香は再びよがり狂う奴隷へと、一気に転落していく。
「二度と逆らえねえように、しっかり躾けてやんねえとな。お、ら、よっ」
 クレインが、無造作に明日香の膣内へと挿入っていく。
 手足を押さえている手下は、明日香の胸を玩び、調教を手伝う。しかし、明日香はその与えられる快感を楽しみこそすれ、抗う意志はすでに存在しなかった。
 乱暴に直線運動を繰り返すクレインは、久しぶりの女の感触に、すぐに達してしまう。
「へへっ、前みたいに徹底的に犯ってやるぜ」
 子宮の奥に絞りだすように精を注ぎ込んで、クレインは一度離れる。前に抱いた時と同じように、一度でも体力の消耗が激しい。しかし、その疲労も忘れるほどに、クレインは肉欲の後押しを受けていた。五人交替で犯すのなら、必ず一回で休息を取ることになる。そうなれば、五回や六回は楽にこなせそうな気がしていた。
「アルザスさん、ケツ使いますか」
「おう」
 クレインと交替した手下は、明日香を上にして突き上げる。
 アルザスは明日香の後門へ唾液を垂らし、潤滑させてから、徐に押し込んでいく。
「いっ、くふあぁっっ   
 意味不明の叫びを上げて、明日香が身体を反らす。
 アルザスの肉の端子に、明日香からの快楽情報が流し込まれる。「もっと奥へ、もっと激しく」   その要求に応えるように、アルザスは我を忘れて排泄口を貪る。腸液が摩擦を減らしても、門の締め付けから生じる快楽がアルザスを、そして明日香自身を肉欲の底無し沼へと引きずり込んでいく。
「ほれ、お口はこっちだ」
 もう一人の手下が、明日香の口に臭う肉棒をなすりつける。明日香はそれを、大好物のキャンディのように、美味そうにしゃぶりつく。
「けっ、宇道の拳士とか意気がってもよ、結局は女だってこった……うォッ」
 肉柱に絡み付く舌が触れた部分は、快楽以外感じなくなるのではないかと思うほどに、手下は絶頂へ向けて、全速力で疾走していく。
「そういうことだ   くぅ、いい感じだぜ、相変わらずよぉ」
 手下が、腰からせり上がってくる快楽の塊を感じながら、それを我慢する事無く、欲望の白濁液という形で明日香の膣内へと送り込む。
 膣と肛門と口腔で抽送を繰り返す三本の凶器は、次々に欲望を液体に変えて、明日香を穢していく。それは一度で終わる訳がなく、入れ替り立ち替り、使える穴は必ず塞がれ、欲液に満たされ、穢されていった。
    それを見ている、もう一人の明日香がいる。
 そう、盗賊のアジトで犯されていたあの時と同じように。
「……?」
 顔に再度放ったアルザスが、まず「妙だ」と思った。
 〈気〉が練られている   目の前の、欲望しか頭にないはずのこの淫乱女から、異常に高まった気配を感じる。
「おい、ちょっと止めろ」
 明日香を組み敷いている三人に、アルザスは言う。
    肉欲の明日香が、もう一人の自分、「理性の明日香」に気付く。
「何だよ、いいところなんだぜ」
「そうっスよ。もうちっとで替わりますから、待ってくださいや」
 と、クレインと手下二人は、腰の動きを止めようとはしない。止めようにも、明日香との接点から送り込まれる「命令」に、彼らは逆らえないでいるかのようであった。
 同じだ   アジトに監禁していた時と。
 アルザスは感じていた。
 いや、違う。
 何か、もっと危険な   
「そうじゃねえ。こいつ、なんか変だ」
 再度アルザスは、明日香の気配に対して、注意を喚起する。
    理性の明日香が、肉欲の明日香に、何かを囁く。
「変? 何が、変、なんだよっと」
 クレインが、背筋を昇っていく快感と相反する方向へ向かっていく欲液を、思う存分直腸に吐き出して、やっと明日香から離れる。
 ゆっくりとすぼまっていく穴から、白い粘液が流れ落ちていく。
「こいつの気配が   
 その時、明日香の気配が、クレインや手下にもわかるほどに、急激に変化した。
 「槍」に貫かれた   アルザスは、そう感じた。クレインや手下たちも同様であった。
 額を、胸を、肩を、腹を、何本もの槍が貫いている。
 しかし、痛みはなかった。
 それに、「槍」は実体ではなかった。
 それが何であるか知ったのは、ゆっくりと立ち上がる明日香の姿を見たときである。
「……わかったわ   これが、《宇》というものなのね」
 くすり、と明日香が笑う。
    理性の自分が、肉欲の自分の中へ、微笑みながら消えていく。
 アルザスを貫いていた〈槍〉が、消えていく。
「こいつ!」
 アルザスが、〈APB〉を投射する。
 それは、無防備な明日香に、確実に命中する。
 しかし。
「……あなたたちには、ちょっと手伝ってもらうわ」
 何があったのか   〈APB〉は、確実に発動した。そのはずなのに、明日香は微動だにしていない。それどころか、アルザスの目の前、確実に気勢を強めている。
 再びアルザスが、〈APB〉投射態勢にはいる。
「よしなさい。もう、それは効果を成さないわ」
 明日香の眼に、アルザスは発動しようとしていた〈APB〉を、手の中で消滅させた。
 何があったのかわからないが、もはや、目の前の女に逆らえば、一瞬で殺される   アルザスはそう感じた。
 クレインたちも、それは同様であったようだった。明日香の許しなしには、動くことすら躊躇われた。
「……大したことじゃないわ。むしろ、あなたたちにとっては」
 明日香が、五人の前で妖艶な笑みを浮かべる。
 その笑みに、男たちの、力を失いかけた股間の凶器が、再び起き上がる。
「望むところじゃないかしら」
 明日香は、扉を開け放ち、外へ出る。
 日差しが肌に心地よい暖かさを与える。
「アルザス、あなたに聞きたいことがあるんだけど」
 突然の指名に、アルザスは慌てふためいて答える。
「な、なんでしょうか」
 それは、あたかも主人に突然呼び出された奴隷のごとき態度であった。
「《プレジャーブースト》、とかいったわね。それを知っているなら、避妊魔法も知っているんじゃない?」
「は、はい、一応……その魔法のおまけってことで、教えてもらいましたが」
「教えてくれる?」
「え? は、はい、それはもちろん」
 どうする気だろう、と思いながら、アルザスは逆らい得るわけではなかった。


5 結
(C)Nighthawk 1999