宇王伝
序
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結
結
〈宇道〉の里。
明日香が、ペルフェウスが宇道を学んだ、縁の地。
そこに、二つの影があった。
かつての宇道総帥、明日香・イプリング。
現「聖天覇王」、ペルフェウス・カーン。
「……ペルフェウス?」
二人を見た宇道の門下生は、その取り合わせに驚き、訝しんだ。確か、明日香が勝利したら、ペルフェウスは前総帥と師範キョウトの墓に詫びるという約束であったことを、誰もが知っている。結果、ペルフェウスが勝利したことも。
二人を見送る門下生たちは、その先に、リュウスイとキョウトの墓があることを知っている。なぜ、今になって墓参りなのだろう 門下生たちは興味を隠し切れず、二人の後を尾ける。
二人の墓は、今朝も門下生によって掃除され、新たな花が捧げられていた。
墓を見下ろすペルフェウスには、いかなる思いがあったろうか。
静かに、ペルフェウスはその前に跪く。
「……あなたに、一言挨拶に参りました」
リュウスイの墓前に、ペルフェウスは語りかける。
明日香は、その言葉を、意外な思いで聞いていた。
「墓参りでもするか」とペルフェウスが言い出した時には、それすらも意外であった。憎んでいた相手の墓に、唾でも吐きかけにいくのだろうか、とまで思ったのだが
「あなたは、それを許しはしないでしょう。しかし、あなたにそれを止めることは、もうできない」
寂しげに微笑み、ペルフェウスは目を閉じる。
「明日香を貰い受けます。それだけ、ご報告に参りました」
ペルフェウスの背後で、明日香は黙ってそれを聞いている。
彼女にはもう、宇道も、復讐も何もない。
ペルフェウスとの新しい生活が、これから始まる。
普通の女性の着るようなワンピース姿が、それを象徴しているようであった。
そして、ペルフェウスの報告に、明日香も心の中で、言葉を添えた。私は、今日からペルフェウスの元へ参ります。幸せになりますから、心配しないでください、と。
「キョウト 」
ペルフェウスは、隣の墓に目を向ける。
「明日香は、確かに貰い受けた。こいつは、力ずくでなければ、俺の言うことを聞こうとはしなかった。お前の言ったとおりだ」
小さく笑うペルフェウス。
ペルフェウスとキョウトとの間にどんな話があったのか、真実は今でもわからない。
ただ、明日香にはもう、ペルフェウスの言葉を信じるしかない。キョウトが自ら死を望んだという話は、真実でなければ、もしかしたらペルフェウスの優しさであるのかもしれない。
「後のことは心配するな。宇道は、俺が伝えてやる」
明日香が顔を上げる。
「俺は、こいつの血を乗り越えた。なら、俺の方が優秀な血を残せる」
立ち上がり、明日香の肩を抱くペルフェウス。
そして、口唇を重ね合う。
以前のような、強引な口づけではない。
あくまで優しい、恋人の口づけ。
明日香の腕も、それに応えるように、ペルフェウスを抱く。
それを覗いていた門下生たちが、思わず身を乗り出す。
その彼らが、突然現われた首筋への刃に硬直する。
彼らの背後では、クレインとアルザスが手下たちに、無礼な覗きどもを連れていくよう顎で示す。
ペルフェウスの手が、明日香の尻を撫でる。
「んっ、何よォ……」
顔を離した明日香が抗議する。
「今ここで、お前を抱く」
「え、ちょっと待 」
明日香が抵抗する前に背中のストラップを外し、ペルフェウスは明日香の胸元をはだける。純白のブラの上から、ペルフェウスは無造作に揉みしだく。
「やだっ、誰かに見られたらどうするのよ」
恥ずかしさに抵抗する明日香の手を、ペルフェウスは制する。
「見せておけ」
ペルフェウスは、構わずに明日香の腿に手を這わせ、囁く。
「お前の全てを俺が貰い受けたことを、この二人に見せてやるんだ」
「バカっ、何考えて 」
声が途切れたのは、明日香の抵抗を突破した指が、薄布の上から敏感な部分を攻め始めたからである。
「やっ、お願い、やめてよ、こんなところで……!」
「ここだからするんだ」
それ以上の反論を遮るように、明日香の口唇が塞がれる。
理性で抗おうとも、快楽に極端に弱くなった明日香の身体に、ペルフェウスの攻めは厳しく、そして優しすぎた。ブラは気付いたときにはすでに外され、ショーツは膝まで下ろされ、片足を抜かれていた。
「あっ、んっ、そこっ……」
明日香もいつしか、ペルフェウスの愛撫を受け入れていた。彼の舌が乳首を転がすたびに、唇が乳首を吸うたびに、堪え難い快感が生じる。指が花弁を玩ぶたびに、珠玉を擦り上げるたびに、確実に絶頂が近付いてくる。
「可愛いよ、明日香」
ペルフェウスの、初めての優しい言葉。
明日香の身体が無意識に、肉体的な快楽以上に、その言葉に反応する。
「ペルフェウス 」
初めて、憎しみ以外の篭もった呼び掛けを、明日香も返す。
それが、愛であるとは言えなかったかも知れない。
しかし、ペルフェウスにとっては、初めて心から受け入れられた返答であった。
「いくよ」
地面に雫を落とすほどに待ちわびていた明日香は、ペルフェウスを一気に受け入れる。
「ふあっ……!」
「明日香 」
地面に胡坐をかいたペルフェウスと向かい合って、明日香は快楽を貪る。肉洞を嬲る肉柱は、その最深部で子宮を重く突き上げる。
「あん、あんっ、ペル、フェウスっ 」
目の前の男にしがみつき、明日香はその名を官能の中、思わず口にする。
「愛してる」
腰を動かしながら、明日香とペルフェウスは、互いの唇を求め、貪り合う。
双方から求め合っての、愛の行為。
初めて明日香は、心と身体が暖かく満たされる。
「あっ、あたしっ、もうっ 」
それが、一気に高まりを加速する。
「ああ、俺も、だ……!」
明日香の腰を揺さぶりながら、ペルフェウスも応える。
跳ねるような上下運動が、大きく、激しくなっていく。
今にも泣きだしそうな表情で、明日香がペルフェウスにしがみつく。
「あっ、あっ、あんっ、やあっ 」
「明日香っ、出すぞっ……!」br
明日香の叫ぶような喘ぎと、ペルフェウスの放精は、同時であった。
ペルフェウスにしがみついたまま、明日香は小刻みに震えながら、初めての、本当のエクスタシーに浸る。
しばらく二人は抱き合っていたが、ペルフェウスは、明日香を背中から抱くように、繋がったまま向きを変える。
そして、明日香の両脚を抱え上げると、再び秘洞を突き上げ始めた。
「あっ、やだっ、こんな格好っ、恥ずかしっ……」
「わかってる、さ」
リュウスイとキョウトの墓前に、ペルフェウスは明日香との結合部を示す。充血して紅色に染まる柔肉を割って出入りする赤紫の肉棒を伝い、先の白濁液がこぼれだし、流れていく。
尚も激しく続く突き上げの後、ペルフェウスは再び、こぼれだすほどに明日香の膣内に射精する。
「明日香……もう離さない」
〈宇〉によって、快楽のみが増幅されているわけではない。ただ、好きだから、愛しているから求める。それだけだというのに、明日香は頭の中が真っ白になるような、今までで最高の、悦楽の境地を感じていた。
かつてのように、自分を傍観している理性の存在もない。自分が自分として、理性と感情と欲望が一つになって、ペルフェウスに応えている。
「愛している」
そうか、これが愛するということなんだ 明日香は、初めてその言葉の意味を、全身で知る。
心と身体が、同じ相手を求めること。
そして、それに応えること。
それが出来て、愛し、愛されるのだと。
今、明日香は、ペルフェウスを愛している、と感じた。
この男の肌の温もり、そして、胎内に感じる熱い精 その全てを、明日香は初めて、愛おしく感じていた。
愛しあう二人を、穏やかな風が包んでいた。
−宇王伝−
−完−
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あとがき
(C)Nighthawk 1999